Thanks
本当に愛していた。
掛け替えのない存在だった。
詩織がいれば、何も要らないとまで思ったのに…

どうして俺は、詩織を手放してしまったんだろう…





『ハルくん、おかえりなさい。』

俺が店から帰ると詩織が嬉しそうに出迎える。
そんな瞬間がとても好きだった。

『めっちゃ腹減ったー… 何か食うもんある?』

靴を脱ぎ捨て、上着をソファーに投げる。
その上着を詩織はいつも拾ってハンガーにかけた。

『無いよ。 私もお腹空いてるの。』

そして笑うんだ。

『ふーん、んじゃ作るわ。 何食いたい?』

大概、料理は俺が作った。
詩織はお腹を空かせた雛鳥のように俺の調理姿を見つめる。

『危ないから向こう行っとれって。 ほら、シッシッ。』

「料理もしない女なんて最低」
なーんて思うなよ?
詩織は作らないわけじゃない。
作って捨ててるんだ。

『今日は何に挑戦したん?』
『肉じゃがよ。 でも駄目だったの…』

ほら、今日も生ゴミとして捨ててある。
肉じゃがとは思えない肉じゃがが…




『美味しい?』

深夜2時。
詩織と2人で晩御飯。
詩織はいつも幸せそうな顔で食べる。

そんな詩織を見てたら、もっと料理の腕を上げたくなった。




晩御飯を食べ終わったらリビングでくつろぐのがお決まり。

『もっとこっち来たら?』

詩織が遠慮がちに離れて座るのも、お決まりの事。
それを俺が引っ張って寄せるのも、決まり事。

『ハルく…ッ 待っ……』

ついこの間、俺が開けた詩織の身体。
まだ狭い胎内へ半ば無理矢理に指を埋めると、詩織は声高くして鳴いた。

『んッ ぁ…ッ』

体なんてどうでもいいから傍にいてほしい。
俺は君にそう言ったね。

『詩織… 愛してる…』

真っ赤な嘘だ。
心も体も、詩織の全部が欲しい。

俺に養ってもらう代償。
それはあまりに大きかった。
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