Thanks
たった1人を探してた。
1人の人を幸せにしたかった。

生まれた境遇のせいかな。
沢山の女より1人の女。
たった1人を一生涯、愛していく。
それが俺の願いだった。

といっても、それは無理な話なわけで。
俺は何度も女で失敗してきた。
たった1人を見つけるために何人もの女を抱いてきた。

変な話、風俗で働く詩織の方が俺なんかより何十倍も純粋だったんだ。


『おーい、詩織ちゃーん。』

ベッドの隅の方で服を着る詩織。
無言、無表情で…何だか怖い。

『ごめんって、詩織…』

抱かれる最中は俺を受け入れている詩織。
事が終わると、いつも不満そうにしてるんだ。

…そりゃそうか。
俺ら、好き合ってないからな。
俺の一方的な想いってやつだし?

でもだからって俺は我慢できないんだけどさ…


『なぁ、詩織。 大事な話があんのやけど。』

ようやく振り返った詩織は、キョトンとした顔で俺を見た。

可愛いじゃねーかよ、くそ…

『引っ越し…考えてんのやけど、詩織も来る?』

「来い」ってのは、あまりにも強引で止めておいた。
あくまで詩織は詩織。
俺の所有物じゃない。

『引っ越し? どうして? 十分広いのに…』

確かに部屋数は足りてる。
家賃だって収入に合ってるし、店だって近くて便利だ。

でも「恋愛禁止」の規則がある以上。
太一に詩織を見せるわけにいかない。

太一は前約束もなく、突然来る。
つねに詩織を隠しとくわけにいかないしな。

そこで、太一から借りたマンションを出て新居に移る事を決めた。

『そう。 恋愛禁止だったのね。』

事情を聞いた詩織は静かに口を開く。

『じゃあ私はずっと影にいるべきなのね…』

寂しげな表情。
そんな顔をさせたくて傍に置いたわけじゃなかった。
ただ幸せにしたかった。

でも、Hopeにいるために詩織を隠すしかなかった。

それで彼女がどれだけ傷付いたかなんて…
俺は一切知るよしもなかったんだ。
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