Thanks
愛してる。
愛してるよ詩織。

君のいない間も何度も叫んだよ。
君が去っていく夢の中で。

『佳晴くん、苦しい…』

辛そうな声を上げる詩織に俺は少しずつ腕の力を弱めていく。
まだそこに詩織がいる事を再認識すると、妙な安堵感を感じた。

『ごめん… 続き言わんでや。』

ハルが俺を見つけてくれて、また詩織に会うチャンスができた。
このチャンス、まだ終わらせたくない。

まだ捨てられたくないよ…








『え? 詩織の家に?』

引っ越すと決めた俺達にアパートを貸してくれる業者なんていなかった。
収入が高くても所詮俺は16歳のガキ。
未成年が家を借りるのは簡単な事じゃなかった。

『お母さん達が遺してくれた一軒家なんだけど…』

詩織は本棚からメモ帳を取り出すと、住所と簡単な地図を書いてみせた。

『ハルくんのお店からも結構、近いのよ? ただ広くて寂しい所なの。』

俺の所に住むまで、詩織はその広くて寂しい所に住んでいたんだろう。
家が寂しいわけじゃないだろう?
きっと1人だったから寂しかったんだよ。

『おしっ、引っ越ししますか! 詩織の家に。』

でももう大丈夫だよ。

『2人だから狭くて賑やかかもよ? ほら俺ってうるさいし。』

俺が一緒にいるから大丈夫。
寂しい思いなんてさせないよ。





それにほら。
引っ越してから間もなくして、小さな命が生まれたから…
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