Thanks
『本棚はそっち。 食器はここ』

せっせ、せっせと引っ越しが進む。
といっても荷物なんか、ほとんどないから呆気なく終わってしまった。

どこに住んでも馴染めないのは、結局のところ自分のいるべき場所じゃないからだろう。

太一の用意した高級マンションも、今いる詩織の家も。

幼い頃から、ずっといた我が家さえも……

『足りないものは、また買いに行こう』

横でそう言って笑う詩織の隣は……
俺の居場所で間違ってないかなぁ……











『ご指名ありがとうございます。 ハルです』

引っ越してから、何だか調子がいい。

家から店までが近いし。
チャリで通えるし。

家に帰れば詩織がいるし。
明日の夜は、何を作ってあげようかな。
寒いから、おでんがいいかな。

……って、主婦かよお前!!

『ハルくんってー。 何か趣味みたいな事あるのー?』

今日、初めてついたお客さんが興味津々に聞く。

趣味か……

『パスタやね。 ソースとか作るの、めっちゃ好きやねん』
『……へぇ。 じゃあ料理得意なんだ』
『まぁ、男にしちゃ得意な方かな』

別に好きで作っていたわけじゃなかった。
ただ母親が自炊する人じゃなかったからな……

でも、今は完全に楽しんで作ってる。

「美味しー」って、君が笑うから……
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