Thanks

事務所に貼られた棒グラフ。
奴とどれだけ睨めっこしても結果は変わらない。

俺がNo.1……か。

こういうのを呆気ないとか他愛もないとか言うんかな。

この店に入った時から、太一だけをずっと追いかけてきたから、一気にやる気を失ってしまった。

「おめでとう」とか、さっきから何回も言われるけど、しっくりこない。

『……帰るか』

帰って、詩織に教えてやろう。
一番になったよって。
やっと太一に勝ったよって。









『おかえりなさい』

家の扉を開けると、薄暗い中から詩織が顔を出した。

『何でそんな暗くしとんの。 節約か?』

部屋の明かりは小さなルームランプのみ。
天井についた大きなシャンデリアは光る事もなく、ただぶら下がっていた。

『あまり明る過ぎると落ち着かないの』
『ふーん…… 俺は明るい方が好きやけどね』

と言って、壁のスイッチを押すと部屋全体が光に照らされる。

『無駄なくらい明るい部屋が好きだな……』

何て言うか……
寂しいのが少し紛れる。

幼い頃は、寝る時もつけてたっけ。

『何か嫌な事でもあったの?』

突然、言う詩織。

『何で?』
『少し元気がないもの』

ははっ。
天才だな、こいつは。

俺の気付かない事まで言い当ててくる。

『俺、今日から店のNo.1になった』
『え?』
『これからは、店が俺の意思で動く……らしい』

それに対しての不安かな。
あとは、目標を失った空虚感。

『そう聞いたら、どうしていいかわからんくなってさ……』

情けないよな。
やっぱまだ子供なんだって思い知らされる。

『ハルくんは、どうしてNo.1になりたかったの? 何がしたかったの?』

真っ直ぐに俺を見る、その目に言葉を失った。

どうして?
どうしてだった?

『……太一に……体を売ってほしくなかった……』

そうだ。
太一を止めたかった。

太一の大切な店を、風俗のようなものにしたくなかったんだ。

『じゃあ、それでいいじゃない』
『え……?』
『ハルくんの目標は、それでいいじゃないの』

クスっと小さな笑い声。

……そうか。
それでいいのか……
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