Thanks



俺がNo.1になって一ヶ月。
そのくらいからだろうか。

詩織は度々、体調を崩すようになった。

『ごめんなさい…… 迷惑かけて』

寝込む事も多かったし、食事をとらない日もあった。






俺はというと、健康食を作る事が得意になっていった。

『何見てんの』

休憩時間も、健康食の本を見たりして勉強した。

『何か美味いもんないかなぁって』
『ふーん。 多趣味だな、お前』

太一はそんな俺を見て笑っていた。

『太一も食った方がいいで? 酒ばっかじゃなくて』

太一は最近、店にずっといるようになった。

あのポスターのおかげだと、俺は思ってる。

全員が枕営業をやめるなんて事は無理だけど、太一は営業をやめた。

それだけで、俺がNo.1になった意味があるってもんだ。

『そういや、千歳が辞めたぞ』

と、突然に言う。

『うん? 何かあったん?』

千歳とは、俺より前に入ったホストで、この店の稼ぎ頭でもあった。

『子供が出来た……らしい』
『……はぁ?』

いろんな理由で辞めた人がいたが、その理由は初めてだった。

そもそも恋愛禁止のここでは、有り得ないのだから。

『子供が出来た以上、ここには置いておけない』
『でも……』
『きちんとした職について、夜は家に帰るべきだ』

……最(モット)もだった。
子供のために、父親は欠かせない。

夜の世界にいたら、妻にも子供にも、大変な思いをさせる。

『まぁ、冷たいと思うだろうけど、辞めてもらったよ』

冷たい言い方の裏に隠れた太一の優しさだった。

それを十分に、一番に解ってたのは自分なのに。




俺は、太一を裏切ってしまった……

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