Thanks

正直、頭が真っ白になった。

『きっと妊娠してるんだわ……私……』

か細い詩織の声が、遠く感じる。




こんな時にどうして思い出すのだろう。

「汚(ケガ)らわしい。 誰にも似とらんじゃないか」

そう言った親族の顔を。

「他所(ヨソ)であれだけ股開いてんだ。 誰の子かなんて知らねーよ」

そう言った父の顔を。




『ハルくん……?』

詩織が呼ぶ。

『は……ははっ。 馬鹿だな俺は……』

詩織は、あの女と違うじゃないか。

詩織の身体は綺麗だ。
俺しか知らない綺麗な身体。

痛がる詩織の身体を無理矢理こじ開けたのは、他でもなく俺じゃないか。


『俺の子を、産んでくれるか?』

透き通ったビー玉のような瞳を真っ直ぐに見て問い掛ける。

すると、ジワッと透明な雫が2、3滴落ちた。

『ハルくんは、それでいいの?』

『うん……』

『私、産んでいいの?』

『うん。 元気な子を産んでくれや』


きっと、俺に似た子が生まれる。
誰に疑われる事もない位、そっくりな子が。

俺は、きっと愛せるだろう。
詩織と、生まれてくる命を……
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