Thanks

それから、12月は何かと忙しかった。

クリスマスのイベントの準備があったり、年賀状を作成したり。

それに、産婦人科も行ったしな。


『8月15日か。 キリがえーな』

予定日が弾き出され、数字の良さに少しばかし嬉しくなる。

『もう心臓が動いてるし、少しずつ人の形に近付いていってるのよ』

パキンと手作りクッキーをかじり、詩織は幸せそうに笑った。

妊娠に対する戸惑いや、不安のせいだったのだろうか。

妊娠を告げてからの詩織は以前に比べ、元気になった。

もしかしたら、堕胎を迫られたらと、怯えていたのかも知れない。

馬鹿だな……
俺が詩織に傷をつけるような真似するかよ……









『へい、らっしゃい! メリークリスマッス』

12月24日。
今年最後の大仕事。

指名料タダの出血大サービスだ。

日頃は、指名料が高くて手の届かないお客も、気軽に指名出来るってシステム。

まぁ、こん中には
「今日は無料だけど、気に入ったら次からお金払ってちょ♪」
的な意味も含まれてるんだろう。

『「らっしゃい」って、お前は魚屋か』

お客を席まで案内した帰り。
太一がそう言って、首ねっこを掴んできた。

『すまん…… あまりの盛況ぶりにテンションが』

だって客の入り方が半端ない。
やっぱ無料の力は凄いな。
それに、クリスマス気分を味わってもらうために、ワインやケーキのサービスもあるんだ。

俺の借金も、これでチャラだな。
うん、チャラだ。

『声に出てるよ、ハル』

『ぇ゙……?』

『まぁ、チャラでもいいけどね』

クックッと太一が苦笑する。
そんな太一の隣で俺も笑った。


こんな日々が、ずっと続くと思ってたんだ……
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