Thanks

『まだ起きてるんか?』

深夜2時を越しても、ハルは泣いて眠らない。
朝から晩までろくに眠れない日も、今日で5日目になる。

俺がしてあげられるのは、オムツ代えと、抱っこ。
後は、詩織が僅(ワズ)かな睡眠を取るための見張りだけ……

うん。
普通に役立たずだな、俺。

『赤ちゃんは泣くのが仕事なの。 それに泣かなきゃ、おっぱい飲まないのよ?』

「ねぇ」とハルに話し掛け、笑顔を見せる。

女は凄い。
母は強い。

詩織は、嫌な顔一つしないで、ハルの世話をする。
それと同時に、手伝いをする俺への感謝も忘れない。

まったく……
凄い女だよ、お前……




『明日で退院ね。 そろそろハルくんも仕事いかなきゃ』

『あー……そやなぁ』

と言われても、5日も休みっぱなしは気まずいな。
太一に何て言い訳したらいいんやろ。

「子供産まれて世話してました」

洒落にならんな、これ。
絶対にクビにされるわ……







次の日の午後1時。
生後6日目のハルと詩織は退院となった。

水色のベビードレスに身を包んだハルの顔は初日に比べ、ハッキリとした顔立ちになってきた。

その顔に見覚えがある事にホッとする。

『ハルを見て? 佳晴くんに似てるでしょ?』

タクシーの後部座席で詩織がクスクスと笑った。

『……そやな。 俺の子やからな』

ホッとした理由は明白だ。

幼い頃の自分にうりふたつのハルを何の疑いもなく愛せるから。

無償の愛を与えられる。
俺はこいつを愛してやれる。

そう安心してしまったんだ。

『可愛いな…… 子供って』

そんな弱い自分が情けなくて、
そんな父親を持ったハルに申し訳なくて……

少し、涙が出そうになった……
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