ラッキー☆ルーレット
「未来の背中って温かい」
彼女は俺の背中にピタっと顔を付けてそう言った。

「……猫のくせに人間みたいなこと言うんだな」

「私は人間みたいに嘘をついたりごまかしたりしませんから」

「羨ましいな」

「えっ?」

「つまり本音を素直に言えるってことだろ」

「……未来」

「羨ましいよ……」

辺りも段々と暗くなり始めてきた。日曜日の夜ということもあって、道を歩いているのも俺たちだけ。帰宅途中の学生もサラリーマンもいない。
すごく静かだ。
まばらに灯る街灯は暗い道を優しく照らしてくれていた。


「……あのね、ミクって名前は漢字で書くと『未来』って書くんだよ」


──『未来』


「同じだな」

「そうだね」

ミクの表情は分からなかったけど。
少なくても俺は……。

微笑んでいた。





「ただいま」
俺は彼女を背負ったまま、玄関の扉を開けた。

「お帰り~どう?何か当たった?」
母さんの声は弾んでいた。俺のくじ引き歴を知っているハズななのに。
期待されているのか、それとも諦められているのか……。
多分……この場合は後者だろうな。

「びっくりするなよ!特別賞が当たったんだ」

俺は背中のソレを掴むと母さんに差し出した。

「あら?かわいい猫ちゃん」

「ニャ~ニャ~(私は賞品じゃないっての!)」

「何か言ってるみたい」

「気のせいだろ、こいつ飼ってもいいかな」

「福引きで当たった猫を捨てるわけにはいかないでしょ。いいわよ」

「本当か?」

「その代わりちゃんとあんたが世話するのよ」

「へ──い」

少しだけコイツの言っていることを信じてみたいと思ったから――。
彼女が『招き猫』かどうか分かるのはもう少し先のことになりそうだ。
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