W・ブラッティ
4
ドアを閉める時にノブが手にくっついた感触(かんしょく)があった。慎次はゆっくりと手のひらを見ると、そこには血がべっとりとくっついていた。
目が見開いた。もしかしたらこの血はもう一人の人格がやったのか?でも分からない。
『少し力を貸してくれ』。そう言われてから今までの記憶が全くない。
もしかしたら自分の体はもう一人の人格に支配されてしまうのか。
慎次は血のついた手を強く握(にぎ)って相談室を離れた。何があってももう一人の人格に自分の身体(からだ)を支配されてたまるか。
――それは違う
昨日聞こえた声だ。慎次はあたりを見回してから、
「どういうことだ?」
声は少し可笑(おか)しそうに、
――いちいち声に出さなくてもいいぜ。俺の声が他の人間に聞こえるときはお前の身体にいるときだけだ。お前がその身体にいるときは心で話しかければいい。今後はそうしてくれ」
慎次は少し顔を強張らせて、
「僕の身体で何をした?」
――お前の身体の乗り心地を確かめていた。しばらくお世話になりそうだからな。
「石川たちをやったのもお前の仕業だな?」
――仕業ねえ。せめておかげと言ってもらいたいね。俺は機嫌(きげん)が良かったぜ。あ
いつらが俺の怒りに触れようとしたからだ。まあ。いい運動にはなった。久し振りに体を動かすからつい面白くなっちまった。
慎次は黙(だま)ってしまった。もう一人の人格(じんかく)はこうまでも残酷(ざんこく)なのか。玲菜が言っていたもう一つのアイデンティティーが存在すると言っていたが、これなのだろうか?
――お前が嫌(いや)なことがあったら俺を呼べ。俺が出てきてお前を助けよう。俺は身体を使えるし、お前は嫌なことから逃げられる。これなら利害が一致するしな。どうだ?
「……」
――まあ、すぐに言われて決められるなら苦労はしないよな?危なくなったら俺を呼べば助けてやるさ。
それ以降(いこう)、声が聞こえなくなった。慎次の両手にこびりついた血が手(て)汗(あせ)で床に薄い赤色が下に垂(た)れていた。
目が見開いた。もしかしたらこの血はもう一人の人格がやったのか?でも分からない。
『少し力を貸してくれ』。そう言われてから今までの記憶が全くない。
もしかしたら自分の体はもう一人の人格に支配されてしまうのか。
慎次は血のついた手を強く握(にぎ)って相談室を離れた。何があってももう一人の人格に自分の身体(からだ)を支配されてたまるか。
――それは違う
昨日聞こえた声だ。慎次はあたりを見回してから、
「どういうことだ?」
声は少し可笑(おか)しそうに、
――いちいち声に出さなくてもいいぜ。俺の声が他の人間に聞こえるときはお前の身体にいるときだけだ。お前がその身体にいるときは心で話しかければいい。今後はそうしてくれ」
慎次は少し顔を強張らせて、
「僕の身体で何をした?」
――お前の身体の乗り心地を確かめていた。しばらくお世話になりそうだからな。
「石川たちをやったのもお前の仕業だな?」
――仕業ねえ。せめておかげと言ってもらいたいね。俺は機嫌(きげん)が良かったぜ。あ
いつらが俺の怒りに触れようとしたからだ。まあ。いい運動にはなった。久し振りに体を動かすからつい面白くなっちまった。
慎次は黙(だま)ってしまった。もう一人の人格(じんかく)はこうまでも残酷(ざんこく)なのか。玲菜が言っていたもう一つのアイデンティティーが存在すると言っていたが、これなのだろうか?
――お前が嫌(いや)なことがあったら俺を呼べ。俺が出てきてお前を助けよう。俺は身体を使えるし、お前は嫌なことから逃げられる。これなら利害が一致するしな。どうだ?
「……」
――まあ、すぐに言われて決められるなら苦労はしないよな?危なくなったら俺を呼べば助けてやるさ。
それ以降(いこう)、声が聞こえなくなった。慎次の両手にこびりついた血が手(て)汗(あせ)で床に薄い赤色が下に垂(た)れていた。