小さな街のドアベルマン
それから数時間が過ぎた頃、バシャバシャと遠くの方から誰かがこちらに向かってくる足音がしました。


「ハァ、ハァ…」


その足音はホテルの前でピタリと止みました。
そして、暗闇に漏れるホテルの明かりが、その人の顔をハッキリと写し出しました。


『ティンク…様…』


「……」


この土砂降りの中傘も差さず、ビショ濡れのまま、三段ある短い階段にしゃがみ込むと、両手で顔を覆いました。


時折お嬢様の肩が、ピクピクと動くのを見たベルは、何も言わず自分の傘をお嬢様に差しだし、いつもの位置へと戻って行きました。


しばらくしてお嬢様が「何も聞かないのね…」
と言いましたが、雨にかき消されお嬢様の言葉はベルには届きませんでした。


それからどのくらい、そうしていたのか、あれほど激しく降っていた雨は、パラパラと小さなものに変わっていました。


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