小さな街のドアベルマン
―Ⅱ―
「ベルおはよう!」
「やあベル元気かい?」
街行く人がベルを見かける度にあいさつをする。その一人一人に変わらぬ微笑みで返事を返すベルは、約10年間ホテルのドアベルマンを勤めてきました。
この街ではちょっとした有名人なのです。
そのせいか、度々良くいるお世話好きの方が
ベルにこの娘が婿を捜しているがどうだ。とお見合い話しを持ちかけて来るのです。
もう27にもなろう男が10年近くもドアの前で開け閉めをしていては、恋もしたことが無いだろう。
そう思われても仕方がなありません。
でも、そんな噂が出回るベルにも、ドアベルマンの仕事に着いた時には彼女が居たのです。
その彼女とは、ベルの仕事が原因で別れてしまいましたが…。
夜空に星がチラつき始めた時、煌びやかなホテルの中からお客様がいらっしゃったのでベルはドアを開けました。
「ありがとう。」
『いえ…』
お嬢様と目があい、思わず目を伏せたベルは
名前を聞こう!と誓った事などすっかり忘れていたのでした。
すると「あの…」とお嬢様が声を掛けて来たのです。
『はい。』
ピクリと反応したベルは、お嬢様の口元をチラチラ見ながら、続きを待ちました。