小さな街のドアベルマン
それから程なくして、お嬢様はある方と一緒に現れました。


「おはようベル!」


『おはよう…ごさいます。
…ティンク様。』


お嬢様の声に反応したベルは、階段を上ってくるティンクに途切れ途切れに返事を返し、静かにドアを開けました。


隣に居る方は誰ですか?


そう聞けたなら、ベルの心は楽になったのかもしれません。


それでも聞けなかったのは、あまりにも楽しそうにしているお嬢様が
男性の腕に自分の腕を絡め、まっすぐその方を見ていたから かもしれません。


本当はお兄様かもしれない。
いやお父様かも…
でも、今のベルにはそんなことを考えるほどの余裕はありませんでした。



今思えば、ベルはお嬢様の名前以外何も知らないのです。


だって彼女は、ただのお客様。
自分は小さな街のドアベルマン。
あいさつを交わす以外、会うことが無いのですから。


しかもベルは、お嬢様には自分から話しかけたことすら無いのです。


そんな性格だから、恋人が出来ないんじゃないか…
ベルは今つくづくそう思うのでした。


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