【BL】背徳の堕天使
「本当か?」
何度もそう訊く賢杜に、俺は何度も嘘をついた。
「本当だったら。だから早く行きなよ」
ようやく納得したのか、賢杜は俺を抱き締めながら言った。
「ありがとう……行ってくる」
「ん。いってらっしゃい」
賢杜のぬくもりを忘れないように、俺は回した腕に力を込めた。
そして名残惜しそうに離れた賢杜は俺を振り返りながら玄関へ向かう。
俺は最後にもう一度「いってらっしゃい」と言った。
サヨナラの代わりに。
バタン、とドアの閉まる音がした。
がらんとした部屋は無機質で、さっきまでいた賢杜のぬくもりは徐々に消え失せようとしていた。
ぐるりと部屋を見渡して、瞼に、記憶に、心に、焼き付ける。
「バイバイ、賢杜」
合鍵を握りしめ、玄関のドアを開けた。