そらとくも〜2つの恋〜
咲穂と家にいるのもままならないまま、私たちは家を出た。
家を出ると夕方の夏の匂いがした。
どこか涼しそうで、寂しい匂い。
私はこの匂いが好き。
家を出て暫く歩くと咲穂が心配そうな表情を向ける。
「お兄ちゃん大丈夫なん?」
うん、と曖昧な返事をしてから話題を変えた。
兄はいつも部屋にいる。
何をしてるかなんて知らない。
いつから引きこもりを始めているのかも忘れた。
母も父も1歩ひいている。
これを知ってるのは咲穂だけ。
別に教えたくなんてなかったけど、家に来るから仕方ない。
小さな路地を抜けるといつのまにか空はもう黒かった。
少し早足で歩く。
咲穂のミュールが音を鳴らす度に、私はうきうきしていた。
咲穂のミュールの音と合わせて、私のミュールも鳴る。
2つの音が止まった所は通う高校の前にあるビルの一室。
扉を開けると暗いと思っていた世界が一変する。
激しく鳴る音楽に、リズムに合わせて踊る人たち。
飲んでいるだけの人もいれば、喋っている人もいる。
みんながみんな自分の時間を楽しんでいる場所。いや、楽しまなきゃならない、そんな場所。