そらとくも〜2つの恋〜
「おお!咲穂!!」
そう言って咲穂に近づいてきたのは首に天秤のタトゥーがある男。
その黒の天秤はハートを2つ乗せている。
どちらのハートも同じ重さ。
けど、それは首の上だけ。
彼の私たちに対する愛情は、明らかにどちらも重さが違う。
それを知ってても私たちはこの人に媚びてしまう。
「ケント~久しぶりじゃん」
そうだ。彼の名前はケントだった。
咲穂の口から彼の名前を聞くと、なぜか胸が小さく揺れた。
しめつける痛さで、小さく揺れる。
「咲穂こそ最近来てなかったやろ」
ケントは咲穂に冗談的な嫌味の目を向けると、視界の端に私を入れた。
私はわざと目を反らす。
「あ、美沙も来たんや?」
はじめから知っていたくせに、わざとらしくこちらにやっと視線を向けるケント。
でもそれは、私がわざと目を反らしたから。
「わざと」じゃないと、視界に入れてくれない。
私がはっきり媚びると必ず拒む。
「はじめからいたんだけど」
ケントに挑戦的な目を向ける。
でもそれは、表面だけ。
内面はそんなことしたくない自分でいっぱい。
「美沙は存在感薄いもんねー。」
さりげなくケントの腕を組みながら言う咲穂を見ていると、また胸が揺れた。
チクチク、チクチク。
胸に何かが刺さる音。
ケントといる時、咲穂は急激に態度が冷たくなる。
だから私はケントを好きになれないのかもしれない。