有給休暇(たったの12p)
 そして、遂に自分の番が回ってきた。

 体温計を確認する。
 38.2度。

『やっぱり上がってる!』

 診察室に入り、誘(いざな)われる前に丸椅子に座る。

 そして、先生の顔を見た。

『えっ?』

 五十は越えていると思うが、何と言っても肌艶が素晴らしい。メガネの金属フレームがこめかみで膨らんでいる。

 ──それよりも、顔付きがモンゴロイドではない。これは……、中国人?

「今日ハ、ドウしましたカ?」

 流暢だが、どこか変なのだ。……間だ。間がいけない。不安定だ。

「今朝から熱がありまして……」

「アーンして、あーん」

 先生は既に、舌を押さえ込もうとしている。

「あーん、ですか?」

「そう、アーン」

 人に聞いといて、あまり喋らせてくれない。言われた通りに口を開けると、鼻が開き、鼻毛の先端が持ち上がる。勿論、何とも間抜けな顔の出来上がりだ。

「喉がちょっと赤いネ。ウン、風邪みたいネ」

「やはり風邪ですか……」

 サラサラとカルテに記入する。鼻を伸ばして確認すると、ウムラウトが見えた。これはきっと、ドイツ語だ。

「お薬出しときマショ。お熱と喉のネ」

「お願いします」

 美和が席を立つと、大きな声で呼びとめた。声量が半端ない。

 来たか、と思った。この声が待合室まで筒抜けて聞こえるのだ。
< 10 / 12 >

この作品をシェア

pagetop