有給休暇(たったの12p)
「あー、ニンシンしてないよネ?」

「に、妊娠? し、……してません!」

 うまく、息が出来ない。
 待合室の連中は、耳をすましていることだろう。

「お薬、変わってくるからネ」

「ああ、ハイ」

「若い人で、後から言って来ることもあってネ。ウフフフ。困っちゃうんですヨ」

 顔面から炎が噴き出す。

『ウフフフ、って』

 プクプクの先生が、キュッキュッと回転椅子を、可愛らしく左右に揺らす。

『だ・か・ら、無いっちゅうに!』

 叫び声が、体の隅々まで響きわたった。


 ──黙々と原動機付き自転車を操り、自分の家に戻って来る。

 お腹が空いている訳では無かったが、美和は薬を飲むために、サンドイッチを頬張った。

 食べながら体温を計る。
 37.1度だった。

 もう、殆んど頭痛は治まっていた。それでも美和は再び体温計を脇に挟み、ゴソゴソと薬を取り出す。一粒ずつ口に押し込むと、ペットボトルに入ったミネラルウォーターで流し込んだ。

「うう……。ぷはぁー!」

 薬が体の中に入り込み、溶ける。処方されたものを飲むことで、気分的に楽になる。更に底に溜ったミネラルウォーターを飲み干す為、体を勢いよく傾けた。

 その時だった。ふと、床に伏したフォトスタンドが目に入った。

 空になったペットボトルの蓋を堅く絞め、今朝の温もりの消えた布団の中に潜り込む。美和が背中を向けた先に、倒れたフォトスタンドが放置されていた。
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