有給休暇(たったの12p)
 最初の患者が呼ばれる。栄えある一位は、あのエロジジイだった。

 どうせ看護婦さんの胸もとに飛び込んでいったのだろう。

 短距離走は、初速がものをいう。今更だが、美和は高校時代、陸上部のキャプテンなのだ。

『フン』

 二番目に目を移す。そこにいたのは、赤子を抱いたお母さん……。

 ──おかしい。美和の理論では、ペチャパイが有利な筈だ。

 美和は考える。普段使わない頭を使う。

「痛っ」

 頭が痛い。それでも美和は、結論を導き出す。

『母は強し、ということかな?』

 ──取って付けたような答えである。


 三番目は、やはり忌まわしいオバハンだった。

『膝が痛いんじゃなかったのか? どうなんだよ? おい!』

 そんな美和に気も止めず、オバハンは四番目の女子大生に話掛けている。

 受付でモタ付いていた中年オヤジは、あの後も財布からカードが抜けなかったようだ。

 因みに、なぜその若い女性が学生だと解ったのかと言うと、オバハンが早速聞き出していたからである。


 美和はその横に座り、順番を待つ。膝頭を揃え、静かに佇む。

 熱があるのだ。
 これ以上、悪化すれば、明日の仕事にも差し支える。

 安静に……、安静にしなければならない。


 なのに、である。

 美和の思いは、虚しく掻き消されてしまった。

 心の中で、美和は叫ぶ。
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