有給休暇(たったの12p)
「トメさん、家にいたよ」

 ガキがショールの母親に報告する。

「で、どうだった?」

 横から聞いたのは、呟いていたジイ様だ。

「体の調子が悪いんだって!」

 ガキがそう言うと、ジイ様が「それなら仕方ないなぁ」とまた呟いた。

 待合室にいる一同が頷く。

『……。なんでやねん』

 美和は突っ込まずにはいられない。

『具合いが悪い人が、診療所に来るもんやろ? ねぇ、違うの? 私、間違ってないよね?』

 美和は分からなくなってきた。頭が痛い。痛すぎる。熱が上がっているに違いない。

『もう、どうにかなりそう……』

 美和はぐったりと、椅子の背持たれに体重を掛けた。

 早く、自分の名前を呼んで欲しかった。ここから抜け出すには、それしかない。

『お願い、まだなの?』

 その切実な思いが通じたのか、オバハンの番が回ってくる。

「あたし、膝が悪いから引っ張ってもらうの。リハビリの一種。負荷を掛けてね。その後は電気治療よ」

 本を読んでいる女子大生に解説する。

『膝悪くて、何でダッシュできんねん。それに呼ばれてるんだから、早く行けって』

 それから程なくして、女子大生の番が来た。同時に美和には体温計を手渡される。受付で熱がある旨、伝えてあったからだ。

『オバハンに時間を掛けないのは、正解ね』

 美和はほくそ笑む。

 オバハンは予定通り、溜り場に吸収されると思い気や、さっさと帰り支度をする。

「この後は眼科や。そして外科」

 指折り数え、医者のはしごを自慢しているようにも聞こえる。

「ワタシなんて、眼科に外科、その後耳鼻科よ」

 やはり、自慢合戦だ。美和は三回目のやれやれを言った。

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