有給休暇(たったの12p)
 そのクダラナイやりとりの最中、女子大生は膝の上で本を閉じ、診察室に入っていった。

 綺麗なお嬢さんだった。チャラチャラしていない。見送った美和でさえ、清楚で素敵だと思った。

 それでもただ一つ、美和には気になることがある。それは、どこが悪いんだろうということだ。


 その答えは、あっけなく皆の知るところとなった。

「ぼーこーえんね、ぼーこーえん」

 診察室の中から、少し高いオッチャン声で連呼している。多分、先生だろう。

『膀胱炎?』

 まだ汐らしいお嬢さんの、ぼーこーえんという事実が暴露される。

『膀胱炎なんだ……』

 待合室の誰もが、そう思っていることだろう。もはやあだ名は、「膀胱炎のお嬢さん」にきまりだ。

『声、おっきいよ』

 私なら赤面どころではない。顔から火が吹き出して、収拾がつかなくなって、泣き出すに違いない。

 また、何やら聞こえる。

「後ろの肛門が尿道近いでしょう? 大腸の肛門には、菌が多いでしょう? だからオンナのヒトは、キチンと拭かないとダメなの」

『ん? 何か日本語がおかしくはないか?』

「尿道は尿道細動と言って、こんな風にグワンぐわんと動いていてね……」

『どう、グワンぐわんなのだ? うら若き乙女の顔前で、股間まわりに目をやり、身振り手振りで説明しているのか?』

 お嬢さんが出て来る時にも「ハイ、膀胱炎ね」、と念押し。

 顔を伏せて、お嬢さんは診療所を後にする。

 これは堪ったもんじゃない、と美和は思った。


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