0.39メートル
一日前
駒鼠がうんうん唸りながら眉間にシワを寄せている。
そのシワの間に、何か挟めそうな気がしてきたので、何が挟めるのか考え始めた。
鉛筆、タバコ、印鑑、500円玉、ペットボトルのキャップ、消しゴム。
「ああっ」
正面で用紙と睨めっこしていた駒鼠、もとい、空子さんが叫んだ。
ボールペンがテーブルを転がる。
僕は彼女が記入していた用紙を覗き込んだ。
「気が早いんじゃないですか」
゙妻となる人゙の欄に、゙晃輪空子゙と真ん丸い字で書いてあった。
ちなみに、僕ば晃輪樹゙で、彼女ば時田空子゙という名前だ。
「捨て印すれば大丈夫ですよ」
間違えてしまったショックで顔面蒼白になりながら、彼女は首を横に振った。
「だって、一生に一回出すものだもん。書きなおすよ。明日、市役所行ってくる」
眉を八の字型にして、済まなそうに僕を見た。
「ごめんね、タツル君。せっかく貰ってきてくれたのに」
落ち込む彼女を暫し凝視する。
僕は何も言わずに、テーブルの足元に置いてある鞄を取った。