0.39メートル
一日前

駒鼠がうんうん唸りながら眉間にシワを寄せている。
そのシワの間に、何か挟めそうな気がしてきたので、何が挟めるのか考え始めた。

鉛筆、タバコ、印鑑、500円玉、ペットボトルのキャップ、消しゴム。

「ああっ」

正面で用紙と睨めっこしていた駒鼠、もとい、空子さんが叫んだ。
ボールペンがテーブルを転がる。

僕は彼女が記入していた用紙を覗き込んだ。

「気が早いんじゃないですか」

゙妻となる人゙の欄に、゙晃輪空子゙と真ん丸い字で書いてあった。

ちなみに、僕ば晃輪樹゙で、彼女ば時田空子゙という名前だ。

「捨て印すれば大丈夫ですよ」

間違えてしまったショックで顔面蒼白になりながら、彼女は首を横に振った。

「だって、一生に一回出すものだもん。書きなおすよ。明日、市役所行ってくる」

眉を八の字型にして、済まなそうに僕を見た。

「ごめんね、タツル君。せっかく貰ってきてくれたのに」

落ち込む彼女を暫し凝視する。
僕は何も言わずに、テーブルの足元に置いてある鞄を取った。
< 10 / 18 >

この作品をシェア

pagetop