0.39メートル
「やっぱり、やめろってことかなぁ。
わたし、タツル君に相応しくないってことかなぁ」
床を虚ろに見つめる瞳に、涙が溜まり始めている。
「ごめんね、タツル君。ホント、ごめんね」
と言うと、堤防が濁流で押し壊されるような勢いで泣き始めた。
顔中を皺くちゃにして、涙も鼻水も垂れ流して、床に蹲りながら号泣している。
彼女は自分では気付いていないが、きっとこれはマリッジ・ブルーのせいだろう。
僕は椅子から立ち上がると、傍らにしゃがみ込んだ。
「許さない」
ぐしゃぐしゃの顔で、彼女は僕を見上げた。
「今更、やめるなんて、絶対許さない」
へ、という表情のまま小首を傾げる。
「明日、俺が貰ってきたら、無理矢理ペン握らせて書いてやる」
にやり、と笑うと、彼女は両手で目を擦った。
上唇まで垂れてきている鼻水を啜ると、満面の笑みで、
「うん!」
と大きく頷いた。