ウソ★スキ
あたしは、キラの手をつかんだまま、早足で車内を歩き続けた。

キラは何も言わず、そんなあたしのペースに合わせて後を歩いてくれる。


ジュースの自販機は、ふたつ先の車両のデッキにあった。


「あったよ、キラ」


足を止めて、キラの手を離して。

そこであたしは初めて、重大な事実に気がついた。

「あ……」


しまった……。

勢いよく席を立ったのはいいけれど、あたし、お財布持ってきてないや……。



キラも、すぐにそのことに気づいたみたいで、背後から「プッ!」って噴き出す声が聞こえてきた。


「もう……美夕ってば、おっかしーい」

振り返るとキラはお腹に手を当てて笑っていて。


「……だよね」

そこでようやく、あたしは重苦しい緊張から解放された。

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