ウソ★スキ
そのときちょうど信号が青に変わって、周りで信号待ちをしていた通行人が一斉に動き始めた。


「……ゴメンね、こんなとこで」


あたしはずっと俯いていたけれど、先輩がばつが悪そうに頭をかいている様子はなんとなく分かった。

「こんな人前で……恥ずかしいよね」

あたしは何も言えなくて、ただ小さく頷いた。


先輩のキス。



……どうして?

……どうしてあたし、逃げちゃったんだろう?

……ただ恥ずかしかっただけ?



「信号が変わっちゃう前に、渡ろうか?」

先輩はそう言うと、あたしの手をぎゅっと握って横断歩道へ足を踏み出す。

あたしは黙ったまま、先輩の半歩後ろを追いかけた。


こうして。


横断歩道を渡り終えるまで、


ううん、それからもしばらく、



あたしたちは無言のまま歩き続けた。








< 283 / 667 >

この作品をシェア

pagetop