ウソ★スキ
鏡に向かっていたソラが、驚いた顔をして振り返る。


「美夕こそ、何で泣いてるんだよ?」

「何でもない」

あたしは慌てて掌で涙をぬぐうと、ソラから目をそらした。

「……先輩に、何かされたのか?」

「違う!」


……ダメだ。

ソラの優しい声に、あたしの涙は止まらなくて。


「もう……信じられない。どうして、こんなとこにいるのよ!」


あたしは泣きながら、ソラにそんな身勝手な言葉をぶつけた。

だけど、ソラは怒らずに、慌てずに、優しい口調で答えてくれた。


「2階のゲーセンにいたんだよ。上のトイレが混んでたから、ここに降りてきたんだ……」

「……」

「……美夕、どうした?」


あたしを心配しているのか、目の前のソラからはいつもの冷たさが全く感じられない。

そして、そんなソラの温かさが、あたしの体中の力を奪っていった。


「……うっ……」


……もうダメだ。

遂にあたしの涙声は嗚咽に変わった。


そして、次の瞬間。

ソラが、その場に崩れ落ちそうになったあたしを片手で抱き寄せた。


「泣くなよ」


そう言うと、ソラはもう片方の手をぐっと伸ばして、開けっ放しになっていたトイレ入り口の扉を閉めた。

続けて、ドアの鍵がカチャリと閉められる音が聞こえる。


「お願いだから、泣かないで」


ソラは、ドアに伸ばしていた手をあたしの背中に回すと、両手で強くあたしを抱き締めた。






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