ウソ★スキ



あたしは、身動き一つできなかった。

何か一言でも言葉を発したら、キラはナイフを握った手に更に力を込めそうで。


あたしにできることなんて、ただ涙を流しながら、薄ら笑いを浮かべるキラを見つめるだけで──






食洗機の音が途切れると、

外で、微かに人の足音がした。

すぐに話し声が聞こえてきて、それがソラと先輩だと分かる。



「2人が心配するよ、涙を拭いて」


キラはそう言うと立ち上がって、ナイフを元の果物籠へ戻した。


「さぁ、立って!」


何もなかったように、あたしに手を差し出すキラ。



あたしは、その手を払うと、自分の力で立ち上がった。

……足が、ううん体中が、今頃になってガクガク震えていたけれど。



「ただいま!」

玄関のドアが開き、先輩の明るい声が聞こえてくる。


キラは

「おかえりなさい!」

って。




いつもと変わらない弾んだ声でそういいながら、二人を迎えに玄関へ出て行った。









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