ウソ★スキ
「……え?」


先輩は、左手の指でその赤い色──おそらくソラを殴ったときについた血──をごしごしとこすりながら、続けた。


「ソラの奴、さっき外に出るなり、苑が見たって言うバスの話を始めたんだよ。あれは自分が無理やり美夕ちゃんを引き止めただけなんだって。だから心配するようなことは何もない、美夕ちゃんを責めないでやってくれって。アイツ、平気な顔でそんなことを言いやがったんだ。だから思わず……」

先輩は、右手で自分の左手の掌を思いっきり殴る真似をしてみせた。


「……2人とも、怪我は?」

「俺は大丈夫。ソラのほうは唇を切ったみたいだけど、ペンションに戻る頃には血も止まってたよ」

さっき2人が外から帰ってきたとき、キッチンで聞いたソラの声からは何も変わった様子は感じられなかった。

キラも、ソラが怪我をしていたなんて一言も言っていなかったし……。



それに……。


ソラ、先輩にホントに言ったんだ。

お土産屋さんのトイレで『先輩にはちゃんと説明しとくから安心して』って言った通り、

あたしと先輩のこと、応援するつもりなんだ……。


なんだか、悔しい。
あたしは唇をぎゅっとかみ締めた。






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