ウソ★スキ
「俺、美夕ちゃんを隣の部屋に送り届けた後、何度も部屋の外に出たんだ」

先輩は玄関の床に腰を落とすと、膝に肘をついて両手を組み、その上に自分の顎をのせた。

「美夕ちゃんには格好つけて大人ぶって見せたけど、やっぱり落ち着かなくて……。美夕ちゃんのことが気になって部屋のドアをノックしようとしたり、部屋に戻ってもじっと座っていられなくて、下に下りてみたり……」


先輩、あたしの前では無理してくれてたんだ……。

あたし、自分のことでいっぱいいっぱいで、全然気づかなかった。


「かっこ悪いよね、俺」

苦笑いすると、先輩は続けた。

「そのとき、キラちゃんの部屋から水の流れる音が聞こえたんだ」

「あたしもその音、聞きました……」

あたしが聞いたのは、キッチンに水を飲みに下りる時だった。

「うん……。ソラは下の風呂を使うって言ってたから、キラちゃんがシャワーを使ってるんだろうなって、最初はそんなに気にしてなかったんだ。だけど、美夕ちゃんの部屋の前に立ったときも、下に下りるときも、リビングで時間をつぶして上に上がったときも、ずっとその音は続いていて──」

先輩が一度、ゆっくりと瞬きをした。

「──嫌な予感がしたんだ。美夕ちゃんからキラちゃんの話を聞いた後だったから」





< 405 / 667 >

この作品をシェア

pagetop