ウソ★スキ
先輩の表情が曇った。

「だから、部屋の前で耳を澄ましてその音をよく聞いてみたんだけど……なんていうんだろう? シャワーを浴びているにしては音が単調っていうか、ただ流れているだけって感じで。……つい、考えちゃったんだよ。
──まさかキラちゃん、思いつめて自分を……って」

先輩の言葉に、あたしは口に手を当てて小さな悲鳴を上げた。

だけど先輩はすぐに

「大丈夫、ナイフはちゃんとキッチンに残ってたから」

って言ってくれて。


その言葉に、体中の力が抜ける気がした。



「ドアには鍵がかかっていなかったから、一言声をかけて中に入ったんだ──そしたら」


──部屋には、誰もいなかった。

バスルームには湯気が立ちこめていたけれど、中は空っぽで。

ただ、シャワーのお湯が出しっぱなしの状態で浴槽に降り注がれていた。


「タイルは濡れてなかったし、バスタオルを使った様子もなかった。……更に言うと、キラちゃんの持っていたカバンも無くなってた」






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