ウソ★スキ
いつもはテレビの音がうるさいリビングも、ママが不在の今は静まり返って物寂しい。


ソラとの待ち合わせ時間は夕方だし、

家に1人きりだからバレないようにコソコソする必要もなくて、

あたしは何度も後ろを振り返りながら、ゆっくりとリビングを通り抜けた。



──今度、あたしはいつここに帰って来るんだろう?



そう思うと、根っこでも生えたんじゃないかと思うくらい足が重くて。

玄関で靴を履いた後、なかなか最初の一歩が踏み出せなかった。


「行ってきまーす」

ドアを開けるとき、ついいつものクセでそう言ってしまった。

「……じゃ、ないよね」


外に出るとドアに鍵をかけて、

その鍵をあらかじめ書いておいた手紙と一緒に封筒に入れて、ポストに落とした。


コトンと、空っぽのポストに鍵が落ちる音がする。


「……パパ、ママ、バイバイ……」

そう言って道路に出たときには、家に帰ってから既に1時間以上が過ぎていた。

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