ウソ★スキ
「──美夕、本当にいいのか?」

ソラがふと、自分のカバンは肩にかけたままあたしのカバンだけを足元に置いて、神妙な口調でそう言った。

「……どうしてそんなこと聞くの?」

あたしがソラを見ても、ソラは前を向いたまま視線を合わせようとしない。

ソラは、無表情だった。

「俺は今でも、ほんの少しだけど、このまま美夕を連れて行っていいのか迷ってるんだ。……今ならまだ間に合うんだ。美夕だけ、このまま家に帰るか?」


だけど、あたしの返事を待つソラの唇は微かに震えていて。


……ねえ、ソラ。

本当は『帰るな』って言ってる気がするのは、あたしの自惚れじゃないよね?


「帰らないよ」

あたしは、ソラの足元に置かれた自分のカバンを拾い上げると、それを腕にしっかり通して胸に抱いた。



「──もう決めたの」



決して哀しい訳じゃない。

この期に及んで、ソラについて行くことが怖くなった訳でもないし、

むしろ、これからずっとソラと一緒にいられるって思うと嬉しいはずなのに。



それなのに、

「あたしは、ソラと町を出るの」

そう言った途端、あたしの両瞳から涙が零れ落ちそうになった。

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