ウソ★スキ
先輩に預けていたアパートの合鍵は、別れたその日にあたしの元へ戻ってきた。

それ以来、先輩がこの部屋に来ることはなくなったけれど、

それでも電話やメールのやりとりだけは定期的に続けていた。


先輩はよく言ってくれた。

「美夕ちゃんの幸せを見届けるって約束だけは、何があっても果たすからね」


だけどその言葉の響きは明らかにそれまでとは違っていて。

もう、『恋人』でも『恋人のフリ』でもない。

そのどちらなのかって悩む必要もない。


だけど、恋や愛ではなくても、決して縁を切ることのできない大事な相手。


あたしたちはそんな、不思議な関係だった。





「ハイ、これで酔いを覚まして」

氷水で冷やした濡れタオルを渡すと、先輩は気持ちよさそうにそれで顔を覆った。

「そういえば……美夕ちゃん、就職決まったの?」

「ううん、まだ」

「やっぱりこの町に残るつもり?」

「……残りたいんだけど、ここは就職先も少ないし、どうしようか迷ってて」



あれから5年も経つって言うのに、どこかで双子がこの町に帰ってくるのを待っている私。

最後にソラと別れた駅のすぐそばに住んで、

就職先もないっていうのに、この町に残ることにこだわって。


「そうか。やっぱり、まだ……」


その全てを知っている先輩が、小さくぽつりと呟いた。

< 570 / 667 >

この作品をシェア

pagetop