ウソ★スキ
「私たちの噂、聞いた?」

「……うん」

「ひどいよねー。心中だとか、殺人未遂だとか。みんな好き勝手言ってくれちゃって」

「でも、救急車で病院に運ばれたんでしょ?」

「そうよ、それは事実」

「……どうして? 何があったの?」



「私は、栄養失調と極度の貧血。それまでずっとハンストみたいな真似をしてたせいで、かなり体が弱ってたから。もう限界だったの」



言葉と言葉の合間に漏れるキラの溜息。

本当は、話すのも思い出すのも、辛くて仕方ないんだろう。


「……だけど、体より、精神状態のほうがやばかったんだよね。あの時、私はおかしかったから。ソラが私の全てで、ソラのことしか考えられなくて……」


あの日駅で見たキラの弱々しい姿。

それはこの5年間、いくら瞬きをしてもあたしのまぶたの裏に焼き付いたまま、消えることがなかった。


……キラからソラを奪おうとして、

そこまでキラを追い詰めたのは、誰でもない。


このあたしだ。





「……だったら、ソラはどうして?」

「……」


腕まくりしていた白衣の裾をゆっくりと下ろすキラ。



「……睡眠薬の過剰摂取による、急性薬物中毒」



それは、店内をいっそう重い空気が支配した瞬間だった。


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