ウソ★スキ
スケッチブックの上に、ポタポタと音を立てて、あたしの涙が落ちる。

急いで絵の上に落ちた涙の粒をハンカチで押さえて拭き取ったけれど、そこにはしっかりと涙の跡が残ってしまった。


「ソラは小さな頃から、人やモノに一切執着しない子でね……。一見、愛想が良くてよく笑う素直な子供のように見えたけど、実は心配するくらい淡泊だったんだ。……そこが喜怒哀楽の激しいキラちゃんとは正反対だった」

ソラは、旦那さんたちがおもちゃや本を買ってあげるって言っても、決まって「いらない」と断っていたらしい。

その理由は、

無くなった時に悲しくなるから。

大切なものを失うのが怖い。
だから、欲しい物ほど、いらないんだよって──



その話を聞いて、あたしはソラの部屋に入った時のことを思い出した。

ソラは本が好きで、よく色んな本を読んでいた。

近所の本屋さんにだってよく通っていたはずなのに、

ソラの部屋には本や雑誌がほとんど残されていなかった。


ううん。本だけじゃない。

ソラの部屋は必要最低限の物しかない、もの寂しい印象で──

それにはこんな理由があったなんて、あたしは全然気がつかなかった。


ペンションに4人で旅行した夜、ソラから聞いた小さな頃の思い出。

ソラは、キラが頼子さんにグラスを投げつけられて、必死に逃げ回る傍らで、身動きひとつできずにいたと言っていた。

頼子さんは、ソラにとって初恋の相手だったはずなのに。

そんなソラにとって、あの出来事は、大事な初恋の相手を失った瞬間だったんだ……。


……あのとき、深い傷を負ったのはキラだけじゃなかったんだ。



失いたくないから、欲しくないなんて。

あたしは、そんなソラの心の闇に、全然気付いてあげられなかった……



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