ウソ★スキ
その日、ソラはあたしの2つ隣のカウンター席に腰掛けて、旦那さんや奥さんと話を続けていた。
目の前にソラがいるのに、ソラは決してあたしに気づかない。
ソラなのに、ソラじゃない。
5年ぶりにソラに再会できたっていうのに、
こうしてソラと同じ空間を共有しているっていうのに、
……気が遠くなりそうだった。
ソラが席を立ったとき、旦那さんが申し訳なさそうな顔で
「よく我慢してくれたね」
って言ってくれた。
「大丈夫です。覚悟は出来ていましたから」
だけど、それはただの強がり。
確かに覚悟していたつもりだったけれど。
現実は、想像していたより何倍も何十倍も残酷で。
気を確かに持たないと……ってそればかり考えて、
隣にいるソラの姿を、声を、懐かしく思う余裕さえなかった。
結局その日、
ソラとどんな会話を交わしたのか、何も覚えていない。
多分ソラはずっと旦那さんや奥さんと話をしていて、
時々話をあたしにふってきて。
あたしはそれに曖昧な返事を返しただけだったんだと思う。
5年ぶりに会った、懐かしいソラ。
すぐ側にいるのに、決して触れることのできないソラ。
そんなソラの隣にいるのが苦しくて、
息が出来なくて。
あたしは、どうにかなりそうだった。