ウソ★スキ
あたしは静かに目を閉じた。


ごめんね、キラ。

あたしじゃソラを幸せにしてあげられなかったよ。

……ただ、それだけが心残りだった。


「あたしね、この2週間で自分なりに気持ちの整理をつけたんだ。……だから、もういいの。ソラは何も思い出さなくていい。ソラに会えて、ソラが幸せだって分かったから、それで十分……」

「……美夕?」

「この前奥さんが言ってたとおりなの。ソラはこれ以上あたしといたらダメになっちゃう。……だから、もう、会わない」


誰かが階段を上る音。

それに続いて部屋のチャイムが鳴り、引っ越し業者がドアの外からあたしの名前を呼んだ。


「ほら、聞こえたでしょ? あたし、もう行かないと」

「ちょっと待って! どこに引っ越すんだ?」


あたしはソラに、引越し先の町名だけを告げた。

ソラが、電話口の向こうでその町の名を小さく復唱したあと、「知らない町だな」って呟く。





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