ウソ★スキ
「そうだよ。そこは、誰もあたしたちのことを知らない……そんな町なんだ」


あたしは玄関のドアを開けて引っ越し業者を家の中に通しながら、ソラとの話を続けた。


「あのね。ソラは覚えていないと思うけど、あたしたち、5年前に誰も知らない町で幸せになろうねって約束をしたんだ」

「……俺と美夕が?」

「うん。その時あたしたちはものすごく追い詰められて、駆け落ちするつもりだったの。結局、事情があって実現は出来なかったんだけど……」


遠くからその場所を眺めただけで胸がキリキリ痛むから、

駅のすぐ近くに住んでいながら、あたしはずっと、一番奥のホームにだけは立ち寄ることが出来なかった。


──だけど、つい数日前。

あたしはようやく1人でそのホームに立ち、5年前に泣きながらソラとキラを見送ったのと同じ電車に乗ることが出来た。


そしてあたしは考えた。

もしもあの時、あたしとソラがこの電車に乗っていたら、あたしたちは一体何処へ行ったんだろう?

今頃、何処で何をしてるんだろう? って。



「……窓の外を眺めながら電車に揺られていたら、途中で少し大きめの駅を見つけたんだ。駅前には本屋さんがあって、なんとなく、懐かしい雰囲気のする場所だなって思ったの」


その場所に“何か”を感じて、あたしはそこで下車した。


「もちろん初めての場所だった。だけどあたし、ここなら頑張れるって思ったの。あの時の約束とは違って1人になっちゃったけど。……でも、あたしは大丈夫。1人で頑張れるから」


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