【戦国恋物語】出会いは突然風のように…
自分でも、何故これほどまでそのことを否定するのか不思議だった。


信長さまの側室になるのがそんなに嫌だとは自分でも思わないからだ。


秀政に誤解されるのが嫌だから?


でも、どうしてそれが嫌なのか、それすらも分からない。


とにかく、嫌で嫌でたまらなかった。


「絶対、絶対ならない!だから秀政行かないでっ」


袂を強い力で掴んで離そうとしないわたしを、彼は困ったように見下ろしている。


わたしはまるでだだをこねる子供だ。


けれど言葉足らずなわたしには、こうすることが精一杯だったのだ。


「迦陵」


俯くわたしに、秀政は苦しげに言った。


「迦陵が幸せなら、私はそれでいいんだ。相手が誰であろうと……」


その言葉に、わたしは抗うようにかぶりを振るしかできなかった。


その時ガシャンという何かが割れる音が廊下に響いた。


はっとして振り向くと、どうやら殿の部屋の辺りが騒がしい。


「信長さま?」


ついそちらが気になって、秀政の袂を掴む指を緩めてしまった。



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