【戦国恋物語】出会いは突然風のように…
その部屋には茶碗のかけらが散乱していた。


「あぁ……」


思わず次の間の敷居で立ち止まり、部屋の中を見渡した。


上段の間には紙が散乱し、床の間の高価な壷が転がっている。


近習の小姓たちは皆一様に消沈し、彼らの前にはひとりの女中が頬を押さえながら泣き伏している。


惨憺たる現状だった。


そこに大の字になって寝転がっている信長さまがいた。


「これはいったい何事ですか?」


側にいた小姓に声を掛けると、彼は虚ろな目をわたしに向けた。


けれどわたしを見ると、さっとその眼に険しい光が差した。


(え?)と思う間もなく小姓は「あなたのせいだ」と厳しい声を出したのだ。


「それは……わたしが遅くなったから?」


それには答えず小姓はぷいと顔を背けてしまった。


そのやりとりが耳に届いたのか、信長さまがこちらを見た。


「遅い」


「申し訳ありません」


まさか、わたしが来なかっただけでこれだけ荒れるのだろうか。


わたしは信長さまの気持ちを計りかねた。


「下がれ」


小姓たちが肩を震わせ立ち上がり、いまだ泣き伏している女中を促して部屋を出て行った。


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