【戦国恋物語】出会いは突然風のように…
「そのあと、その秀政にも会ったんですよ」


その可笑しい気分のまま、つい言ってしまったのがいけなかったのだ。


信長さまはぴくりと眉を動かし、「秀政?」と恐ろしいくらい低い声音で繰り返したのだ。


「あ、でも偶然そこの廊下で会って、二言三言交わしただけですから」


「……」


信長さまは険しい顔でわたしを睨みつけている。


秀政の名を聞いただけで何故そこまで怒るのか。


わたしはこの時ほど、人の心の機微に疎いことを呪ったことはなかった。


信長さまがどうしてこんなに険しい顔をするのか、いまいち理解出来ないのだ。


「秀政に会って嬉しかったか?」


「はい、それは。久々でしたし」


「秀政とまた会いたいと思ったか?」


「……彼は今もわたしにとって大切な人ですから」


刹那。


信長さまの手がわたしに向かって伸ばされた。


先程の女中の姿が甦り、わたしは(殴られる)と思って咄嗟に目を閉じた。


けれど衝撃があったのは頬ではなく。


思いの外優しい力で顎を押さえられ、信長さまの唇がわたしの唇に重ねられたのだ。


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