【戦国恋物語】出会いは突然風のように…
ひとり悶々とするわたしを見て尼さまは小さく笑うと、

「風が、出てきたわ」

と独り言のように呟いた。


答えの出ない思考に諦めをつけ立ち上がると、わたしは閉めきっていた障子を開けた。


途端にひゅーと風が吹き込んできた。


その風は文机の上の紙をはらはらと舞わせた。


「まあ。これは野分けの風ね」


紙を拾いながら尼さまは空を見上げている。


「野分け……」


「この時期になると渦を巻くような雲が時折やって来て、強い風雨をもたらすでしょう。それを野分けというのよ」


しばらく風の様子を眺めていると、寺の下男たちが出てきて、庭木に紐を渡したり雨戸を閉めたりと、激しい風雨への備えを始めた。


「わたしも何かしたほうが?」


「そうね。炊事などは早めにやっておいた方がいいかもしれないわ」


その言葉を受け、わたしは台所へと向かった。


< 48 / 204 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop