その日、僕は神になった
『待たせたなカムイ、入ってくれ』
 扉がゆっくりと開き、彼は部屋へ足を踏み入れた。
『お忙しいところ申し訳ありません』
 腰を四十五度に曲げ、首だけを僕に向けた。端正な顔立ちに嫌みのない笑顔、これ以上にないという作り笑いだ。だがその瞳には黒い光が宿っていた。ライオンの捕らえた獲物を狙う、ハイエナのような瞳だ。
 だがカムイはその牙をなかなか見せようとはしなかった。だがそれは値踏みをしているだけだと僕は分かっていた。二人の間には背丈程の草が生い茂り、その隙間から様子を伺い合っているのだ。
 カムイの切りだす話題はもっぱら人間界のことだった。最近の音楽シーンや小説の話などの当たり障りのない会話、こりぇ耐久戦になりそうだ…。レイチェル、頼むから早く来てくれ。
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