その日、僕は神になった
「いや~、ついつい長話になってしまった」
 そう言ってカムイが立ちあがったのは、かれこれ一時間程過ぎた頃だった。
「あっ、そうそう、神、一つ聞き忘れていました。神になられると、趣味も変わられるものなのですか?」
 カムイは口の両端を持ち上げただけの笑みで僕を見つめてきた。何のことだ?だが奴がとうとう本性を現したことだけは確かだった。僕はこの一時間の間のやり取りを思い返した。何かこいつに尻尾を掴まれるような失言をしてしまったのだろうか?
「おやおや、思い当たりませんか?神、あなたは確かローリングストーンズ派だったはず…、ですよね?ですが私が部屋を訪れた時に流れていたのは、ザ・ビートルズのGet back、でしたよね?」
 僕は顔面の筋肉が硬直していくのを感じた。筋肉の一本一本が、その筋繊維が、醜く釣りあがり凍りついた。
「いや、たまにはビートルズもいいかなと思って…。秘書がビートルズ好きなんだ。その影響かな」
 頭の中でGet backというフレーズがリフレインしていた。戻って来い、戻って来い、戻って来い、戻って来い、戻って来い、そう戻って来い、僕の記憶よ…。
「まぁ、ビートルズ派の私としては、彼らの魅力に気付けていただけ嬉しい限りですが」
 失礼します、そう言ってカムイは扉を閉めた。
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