その日、僕は神になった
 救急車が現場に到着したのは事故発生から数十分経ってからだった。通行量の多い交差点だ、通行人の誰かが通報してくれたのだろう。俺が横たわるその横では、玲花が力なく座り込んでいた。何が起こったのか理解出来ないでいたのだろう、瀕死の俺を眺めながら、頬に一筋の涙を流していた。
 救急病院に搬送された俺は、すぐに緊急手術を施された。手術室の前には、訃報を聞き付けた両親が駆けつけていた。
 父親はビニールの長椅子に腰かけ、考える人の銅像のように左手を頬にあて、左足を忙しなく揺らし続けていた。
「親父…」
 俺は自然と呟いていた。そして急に照れ臭くなった。親父なんて呼び方をしたのは、これが初めてだった。
 母親は親父の左腕に自らの右腕を絡め、壁に掛けられた時計と、手術中と赤く光るランプを交互に見比べていた。その瞳が赤く染まっていたのは、そのランプを強く睨み過ぎていたからだろうか?
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