その日、僕は神になった
 集中治療室に運ばれた俺は、いくつもの機械に囲まれ、その一つ一つとチューブで繋がれていた。そこには濃いクマを作り、赤く目を腫らした両親が、目を覚ました玲花の姿があった。彼女は俺の両親を見るなり、膝をつき、涙を流しながら何度も繰り返し頭を下げた。
「私が悪いんです、私が楓真くんをこんな目に…」
 止めてくれ!それ以上は口にしないでくれ!恥じの上塗りをするようなことは…。だがその思いが届くこともなく、彼女は全てを話していた。それを聞いた両親が、彼女をせめるようなことはもちろんなかった。むしろ、人並みの青春を過ごしていた一人息子の、その成長を慈しんでいるようだった。
「あの子、いつの間にか大人になっていたのね。人を愛し、その人を守るなんて…」
 お袋の慈愛に満ちた表情。こんな表情を俺は一度も見たことがなかった。もし生前にそんな表情を見せてくれていれば…。
「あぁ、立派に育っていたんだな。この先将来、どうなるものかと心配していたが、それは私たちがあの子の成長に、一切気付けていなかっただけなのかもな…」
「私たちは親失格ね。何も気付いてあげられなかったばかりか、何もしてあげられなかった…」
 母親は泣き出した。それは蚊の鳴くようなか細いそれだった。
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