製本会社のゴミ置き場から出火したんだという。延焼して倉庫にでも燃え広がったら、物が物だけに凄い事になる。

巻き上げられた火の粉が風で運ばれて、また新たに火事が起こってしまったら大変だ。


「三塚巡査! 大丈夫ですか? みなさん、消火活動の妨げになります! もっと下がりましょう」

「おたくか、助かるよ。はい、このテープに触れないように下がって!」


 ホイッスルを吹き鳴らしながら人波を押し返す三塚さんを脇から補助するが、激しく上がる火柱で後頭部が焼けるように熱い。

俺は持っていたペットボトルの水をタオルに掛けて被り、その熱を何とかしのいだ。


「ああそれ、本官にも」


 三塚さんはジャバジャバと後頭部に水を掛けている。とてもこの水であの火は消せないが、少しは役に立ったようだ。



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「いやぁ助かったよ」


 実況見聞の後交番に招かれた俺は、三塚さんと一緒にココアを飲んでいた。彼とはココアが取り持つ縁で親しくなったんだ。


「三塚巡査のはやっぱり格別ですね。言わばロイヤルミルクココアだもんな。俺は冷蔵庫無いし、ここ迄贅沢出来ないや」


 彼はココアを牛乳で作る。本当を言ってしまうと、粉末クリームのあの甘味と香りも肝なんだけど、それは心にしまっておく。


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