「あのぉ、三塚巡査。放火犯の目星は付いているんですか?」

「それが……大抵犯行は暗くなってからで、不審人物の目撃証言もまだ無いんだよ」


 しかし今回の火事も含めて、現場は半径500m圏内に収まっているという。


「俺は俺で見廻りを続けます。何か有ったらすぐ三塚巡査に知らせますから」

「ありがとう。これ迄ホシは一日に一度しかヤマを踏んでいない。明日の、人通りが疎らになる頃。夕方を過ぎてから注意してくれると助かるな」


 川縁りには小規模な工場や倉庫等、可燃物を擁している建物が多い。それらが距離を置かずに住宅街と接しているのだ。

ひとつ間違えば大惨事になりかねない。

俺は決意も新たに放火犯確保へ乗り出した。



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「今日も見事な夕焼けだったけど、こう好天が続くと空気も乾いて火事が起き易くなるよな」


 そしてひと度火の手が上がったら、瞬く間に延焼を引き起こしてしまうに違いない。肝心なのは初期消化だ。俺はまたペットボトルを携えて夜警に出た。

すると程なくして、もう稼働していない工場の奥からバケツをひっくり返したような音が鳴り響く。


「あそこには人なんか居ない筈だ。怪しいぞ?」


 俺はペットボトルを握り締め、細心の注意を払いながら工場に足を踏み入れた。


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