それから目立った音はしていないが、明らかに何かが潜んでいるような気配がする。

ライターの音やマッチの音、そして衣擦れの音を聞き逃さないように耳をそば立てた。

 丁度そこに転がっていた手頃な棒を拾い、音を立てないように気配との間合いを詰めていく。

 こんな暮らしをするようになってからというもの、夜目がすっかり利くようになった俺は辺りを見回した。人が隠れられそうな所は奥の一画しか無い。


「出てこい、この野郎っ!」


 そこを目掛けて力の限り叫んだ。一瞬その場の気圧が上がったかと思う程に空気が張り詰める。しかし……。


「なぁんだ。おいで、ニャンコ」


 暗闇で目を光らせていたミケは、こちらを一瞥すると何事も無かったように跳び去った。


「ふう。無駄に緊張したなぁ。……ま、マズっ! ぺっぺっ! ゴホッ、エホッ!」


 緊張が解けた勢いで、消火用にと持ってきた、冷えてもいない水道水をゴクゴクと飲んでしまった俺は、その余りのカルキ臭に噎ムせていた。


「ひとりで何やってんだ、俺」


 そう嘆いてみても答えてくれる人は居ない。何だかアホらしくなったので、夜警を切り上げ御殿の材料を集めに廃材置き場へ向かった。


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